大企業で長く働いていると、50代のどこかで「役職定年」「出向」「関連会社への転籍」という言葉が現実味を帯びてきます。ポストを外れる日や会社を移る日が、制度として、考えないようにしていても、その日は近づいてきます。
私は東証プライム上場企業に18年勤め、課長として、先輩たちのそうした節目を近くで見てきました。この記事では、3つの類型それぞれについて見てきたことと、備えとして有効だと思うことを書きます。
キャリア後半の3類型
まず整理から。多くの大企業には、キャリア後半の処遇として、おおむね3つの類型があります。
・役職定年: 一定の年齢(55歳前後が多い)で、管理職のポストを外れる制度
・出向: 籍を残したまま、グループ会社などで勤務する
・転籍(関連会社行き): 籍ごと関連会社へ移る
制度の有無や年齢は、会社によって異なります。共通するのは、本人の意思とは別のところで決まる場面が多いことではないでしょうか。だからこそ、「その日」をどんな状態で迎えるかが問われます。
会社側から見れば、ポストの数は有限で、組織の新陳代謝も必要です。つまりこの3類型は、個人の成果と関係なく、構造としてやってきます。
役職定年: 「居づらさ」は本当にあった
役職定年を迎えた先輩方を近くで見ていて感じたのは、率直に言えば「居づらそうだな」ということでした。昨日までの後輩が、今日から上司になる。判断していた側が、判断される側に回る。本人の実力は何も変わっていないのに、立場と処遇が変わるという、ご本人にとっては酷な制度です。
関連会社への出向・転籍: ポジティブな面もある
一方で、関連会社への出向については、私はポジティブに捉えています。自分の持っているスキルを、それを求めている会社で発揮できるからです。
なお、私が近くで見てきたのは、出向の中でも転籍に近いケースが中心です。
本体では「できて当たり前」だったことが、規模の小さい会社では貴重な戦力になります。同じ「本体を離れる」でも、ポストの都合で外れるのと、スキルを求めている会社に移るのでは、働く景色がかなり違うのではないか、というのが近くで見てきた、率直な感想です。
私自身は、意識していませんでした
では私自身は、「自分もいずれ」と意識していたかというとまったく意識していませんでした。遅くとも50歳までにはFIREするつもりだったからです。役職定年の年齢が来るより先に、自分から会社を出る計画でした。詳しい経緯は法務課長が42歳でFIREを決意するまで【18年間の軌跡】に書いています。
結果としては、50歳を待たず、42歳で退職することになりました(退職を切り出した実録)。
冗談のようですが、これは備えの話として本質だと思っています。経済的な備えが先にあると、役職定年も出向も、「従うしかない通告」ではなく「選択肢のひとつ」に変わります。制度に人生を決められる前に、選べる状態を作っておく。FIREまで行かなくても、この方向の備えには意味があるはずです。
お金以外の備え: 未経験の業務を経験しておく
お金以外の備えとして有効だと思うのは、未経験の業務をあえて経験しておくことです。関連会社に行くことを前提に考えると、この意味がはっきりします。規模の小さい会社では、「全部」やらないといけないからです。
本体では業務が細かく分かれていても、移った先では、ひとりで何役もこなすことになります。そのとき、経験の「幅」がそのまま戦力になります。
たとえば法務なら、事業法務の経験は豊富だけれど、株主総会はやったことがない、という方。心当たりがあれば、株主総会を担当できる職場に、手を挙げておきたいところです。本体にいるうちに未経験をつぶしておくことが、キャリア後半の保険になります。
未経験をつぶす方法は、異動だけではありません。社内公募に手を挙げる、隣の業務を兼務させてもらう、プロジェクトに加わる。小さく始める方法はいくらでもあります。そして経験の幅は、役職と違って、一度身につけば外されることがありません。
まとめ 役職定年・出向は、未経験業務の経験で備えておく
キャリア後半の3類型と備えについて、まとめます。
・役職定年のつらさは、処遇より「後輩が上司になる」関係の逆転にある(見てきた実感)
・関連会社への出向・転籍には、スキルを求められて働けるポジティブな面がある
・備え①: 未経験業務をあえて経験して、「全部できる」幅を作っておく
・備え②: 経済的な備えを先に作り、制度が来る前に選択肢を持つ
役職定年も出向も、来るかどうか、いつ来るかは会社が決めます。ですが、その日をどんな状態で迎えるかは、それまでの過ごし方で変えられます。ご自身のキャリアの後半戦を、制度に決められる前に、一度自分で設計してみてはいかがでしょうか。

