法務の転職は、世の中に情報が多くありません。営業や企画と違って、身近に参考にできる大学の先輩がいないことも多いです。「自分はどこへ行けるのだろう」「何を基準に選べばいいのだろう」と、地図のないまま考えあぐねている方も、多いのではないでしょうか。
私自身、法務として転職を経験し、採用する側も8年務めてきました。その中で感じたのは、法務の転職は「年収がいくら上がるか」だけでは語れない、ということです。
この記事では、私が実際に大きいと感じた「選ぶときの分かれ道」と、最後にものを言う「自分の軸」を、地図のように書いてみたいと思います。
法務転職、3つの分かれ道
法務の転職を考えるとき、年収のほかにも、いくつか大きな分かれ道があります。私が特に大きいと感じるのは、①大手か、ベンチャーか、②業界、③ロケーション(働く場所)の3つです。
① 大手か、ベンチャーか
一つ目は、会社の規模です。大手とベンチャーでは、同じ法務でも、仕事の中身も立ち位置も、ずいぶん変わってきます。
大手では、法務の体制が整っていて、契約審査、法律相談、紛争対応、コンプライアンスといった分野など、ある程度分業されています。その分、一つの領域で専門性を深めやすい環境です。一方、ベンチャーでは、一人で幅広く何でも担うことが多く、経営の意思決定に近いところで働ける面白さがあると聞きます。守備範囲の広さと、スピード感。どちらが良いということではなく、自分がどちらに身を置きたいかだと思います。
② 業界
二つ目は、業界です。若手のみなさんは意外に思われるかもしれませんが、業界によって、法務に求められる役割は結構違います。
たとえば、製造業なら製造物責任や品質に関わる対応、商社なら多種多様な取引契約や債権回収、金融なら細かな規制対応、IT なら知的財産や利用規約。扱う契約の種類も、向き合う規制も、求められる専門性も変わってきます。いまの業界で培った知識が、別の業界ではそのまま通用しないこともあれば、逆に希少な強みになることもあります。転職を考えるなら、「この業界の法務は、何を一番求められるのか」を一度調べてみる価値があります。
③ ロケーション(働く場所)
三つ目は、働く場所です。東京か、東京以外か。
私が転職活動と採用の両方で見てきた範囲では、法務の求人は、やはり東京が中心です。けれど、地方の本社で腰を据えて働く道もあります。待遇は、一般論としては、やはり東京が高いです。私自身、東京以外で法務をしていた時期もありますが、東証プライム上場の会社で本社が地方、という会社でない限り、相対的に報酬が低いのが現実でした。独身の方であればロケーションの重要性が高くないかもしれませんが、ご家族のいらっしゃる方は、エージェントに伝えるべき重要な条件の一つになるかもしれません。
最後にものを言うのは、「やりがい」
ここまで三つの分かれ道を挙げてきました。条件を並べて比べることは、もちろん大事です。けれど、私自身の経験から言うと、最後に背中を押してくれたのは、条件ではありませんでした。
私が転職で一番大事にしたのは、年収でも、会社の規模でもなく、「自分がやりがいを感じられる仕事かどうか」でした。とりわけ、日本経済に貢献できる仕事がしたい、という思いが、強くありました。以前在籍した会社で、「これは日本にとって、どちらが良いのか」という議論が当たり前に交わされる文化に触れ、その問いの立て方が、自分には合っていると感じたのです。条件だけで選んでいたら、たどり着けなかった感覚かもしれません。
条件のいい会社は、世の中にたくさんあります。けれど、条件だけで選ぶと、入ってから「自分は何のために働いているのだろう」と、足元が揺らぐことがあります。自分は何にやりがいを感じるのか。それを一度、言葉にしておく。そうすると、たくさんの選択肢の中から、自分にとっての「ここだ」が、見えやすくなるように思います。
同じことを、採用する側からも感じてきました。面接で、待遇や福利厚生といった条件ばかりを尋ねる方がいます。そうした方は、もっと条件の良い会社が見つかれば、また移っていく。正直なところ、私は採用を見送ることが多かったように思います。逆に、「この会社は、難しい判断のとき何を大事にしているのか」と、自分の軸に照らして確かめようとする方には、こちらも誠実に、会社の考え方をお話ししたくなりました。何を質問するかに、その人の軸が、自然とにじみ出るものです。
このあたりの価値観や、二つの会社で見た景色の違いについては、別の記事に詳しく書いています。
法務のキャリアパスは2つ【専門性を磨くか、複数の会社を経験するか】
まずは、自分の立ち位置を知ることから
とはいえ、こうした分かれ道も、自分の軸も、頭の中だけで考えていると、なかなか前に進みません。法務の転職市場がいまどうなっているのか、その中で自分がどう評価されるのか。それは、実際に動いてみて、初めて分かることが多いものです。
ですので、今すぐ転職するつもりがなくても、まずは転職エージェントと話してみるところから始めるのを、おすすめします。自分の市場価値や、どんな選択肢があるのかを知るだけでも、ぼんやりしていた地図が、ずいぶんはっきりしてきます。
私自身、転職エージェントに登録して、自分の市場価値を確かめてみた体験を、別の記事に詳しくまとめました。最初の一歩として、何か参考になればうれしく思います。
JACリクルートメント体験記。登録から内定・年収交渉まで、実際どうだったか
また、自分が転職市場でどう評価されるのか、その軸については「管理部門が転職で評価される3つの軸。あなたの市場価値は思ったより高い」に詳しく書いています。あわせて読んでいただくと、立ち位置がつかみやすくなるかもしれません。
管理部門が転職で評価される3つの軸。あなたの市場価値は思ったより高い
まとめ 地図は、歩き始めると見えてくる
法務の転職には、大手かベンチャーか、業界、そして働く場所という、大きな分かれ道があります。そして最後は、年収や条件ではなく、自分が何にやりがいを感じるか、という軸が、選択を支えてくれます。
まずは、自分の立ち位置を知ることから。地図は、歩き始めてみると、少しずつ見えてくるものだと思います。もし、その一歩手前で「そもそも転職すべきかどうか」から迷っているなら、得るものと失うものを書き出して整理する方法を、別の記事にまとめています。
30代課長の転職決断フレーム【得るもの・失うものを全列挙する】

