海外でチームを率いると、日本で当たり前だったやり方が、急に通用しなくなる場面に出会います。私は中国に駐在し、現地スタッフをマネジメントしました。いわゆる異文化マネジメントの現場です。
そこで痛感したのは、「日本式は全部ダメ」でも「全部正しい」でもない、ということです。通用しなかった日本式と、通用した日本式。そして、その両方を超えて効いた一つの原則。現場で実際に起きたことをもとに、書き残しておきたいと思います。
通用しなかった日本式、「早く着手するのが正しい」とは限らない
日本では、仕事は早めに着手するのが美徳とされます。私もそう思っていましたし、現地スタッフにも同じことを期待していました。ところが、中国ではそれが必ずしも通用しませんでした。
現地スタッフには、締切ギリギリに一気に追い込むタイプが多くいました。最初は「なぜもっと早く動かないのか」と、もどかしく感じていたものです。あるとき、会議資料の作成が一向に進んでいないように見えたので、フォローしたことがあります。すると返ってきたのは、「会議で必要なのは分かっています」という、少し強い反発でした。
北京大学のEMBAで学んで学んだのですが、彼らのやり方には合理性があります。環境変化の激しい中国では、早く作り込みすぎると、締切までの間に前提が変わって、やり直しになることが多々あるのです。ギリギリまで待つほうが、最新の状況を反映できて無駄が出ない。そういう面が、確かにあります。
ここで学んだのは、「日本のやり方が常に正しい」という前提を、いったん脇に置くことでした。相手のやり方が非効率に見えても、そこに別の合理性がないか。まず、自分の物差しをいったん下ろして、それを確かめてみる。これは、異文化マネジメントの現場で最初に必要になる姿勢だと思います。
こうした行き違いは、中国では珍しくありませんでした。多民族国家ですから、現地スタッフ同士でも前提が異なり、すれ違いは起きて当たり前という感覚です。だからこそ、「自分の常識が通じている」と思い込まないことが、出発点になりました。海外で相手と前提を揃えるための具体的な工夫については、別の記事(「29歳で海外赴任に自ら志願した話」)でも触れています。
私が中国でチームを率いることになった経緯は、29歳で海外赴任に自ら志願した話。日本の「暗黙知」と「完璧主義」の外で学んだことに書いています。
通用した日本式、「チームでやり遂げる」は国境を越える
一方で、日本式がそのまま通用した場面もあります。その代表が、「チームで一つのことをやり遂げる」という進め方でした。
プロジェクト全体の目標を決め、メンバーごとに役割を分担し、進捗を全員で確認しながら進めていく。そして、やり遂げたら、みんなで打ち上げをする。日本では当たり前のこの流れは、中国の現地スタッフにも、しっかり機能しました。目標が共有され、自分の役割が見え、仲間と達成を分かち合える。この感覚は、国を問わず人を動かすのだと感じました。
「日本式は通用しない」と、よく言われます。けれど、それは半分だけ正しい。通用しないものもあれば、そのまま通用するものもあるのです。大事なのは、どちらかに決めつけず、目の前で何が効いているかを見極めることだと思います。
中国の現地スタッフから学んだ、人の動かし方
現地スタッフの育成をするなかで、私自身が現地スタッフから学んだことのほうが、多かったかもしれません。
一つは、「褒める」ことの効き目です。私が接した中国のスタッフは、日本人よりも感情をはっきり表に出す人が多く、褒めると、目に見えてアウトプットの質も量も上がりました。正直なところ、感情や本音が見えにくい日本人をマネジメントするより、ずっとやりやすいと感じたほどでした。
もう一つは、「評価」と「キャリア」への意識の高さです。彼らは、自分の仕事が評価にどうつながるかに、とても敏感でした。裏を返せば、評価やキャリアに直結すると分かれば、面倒な仕事やチャレンジングな仕事にも、進んで取り組んでくれます。
一度、日本語でのコンプライアンス研修を現地スタッフに頼んだとき、最初は乗り気でない反応が返ってきました。そこで、伝え方を変えました。「これをやってもらえると、もう一段上の仕事を任せられる判断材料になります。あなたのキャリアアップになると思って、お願いしているんです」。そう伝えると、前向きに引き受け、力を尽くしてくれました。
伝え方一つで、人の動きはここまで変わる。これは、異文化かどうかを超えた学びでした。
結局は「その気になってもらう」こと
こうして振り返ると、通用するかどうかを最後に分けていたのは、「やり方が日本式か中国式か」ではありませんでした。相手が、その仕事に対して「その気」になっているかどうか。突き詰めれば、それだけだったように思います。
そして、人を「その気」にさせる入口は、一人ひとり違います。成長を実感したい人。認められたい人。評価という形で、はっきり示してほしい人。同じ言葉をかけても、響く人と響かない人がいる。だからこそ、相手個人の欲求を見て、それに合わせて動機づけを変える。それが、マネージャーの一番の仕事だと、私は考えています。
この「その気になってもらう」という感覚は、帰国して日本で管理職をするようになってからも、ずっと役に立っています。異文化の現場で身につけた原則が、結局はどこでも効く。そこに気づけたことが、駐在で得た一番大きな財産かもしれません。
まとめ 通じるのは「やり方」でなく「やり遂げる姿勢」
海外でチームを率いるとき、「日本式は通用しない」と、必要以上に身構えることはないと思います。通用しないものもあれば、そのまま通用するものもある。早く着手させようと急かすやり方はうまくいきませんでしたが、チームで目標を分かち合う進め方は、そのまま効きました。
そして、その手前にある一番大事なことは、相手を「その気にさせる」こと。やり方の正解を探す前に、目の前の一人が何を求めているかを見る。それができれば、国が変わっても、たいていのことは前に進むのだと思います。
なお、自ら志願して海外に渡った経緯は「29歳で海外赴任に自ら志願した話」に、赴任そのものを受けるかどうかの判断軸は「海外赴任を選ぶ前に考えたい7つのこと」に書いています。帰国後のキャリアの話は「海外赴任は、終わってから効いてくる」に書いています。
赴任を志願した経緯は、29歳で海外赴任に自ら志願した話。日本の「暗黙知」と「完璧主義」の外で学んだことに書いています。
行くかどうかの判断軸は、海外赴任を選ぶ前に考えたい7つのこと【法務として中国へ渡った私の判断軸】に整理しました。

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